「モバイルオーダーを導入したら、人件費は減ったのに客単価が下がってしまった」——こうした声を、飲食店の現場で耳にすることが少なくありません。モバイルオーダー 客単価アップを本当に実現するには、システムを入れるだけでは不十分で、削減できた人件費をどう再配分するかという視点が欠かせません。この記事では、モバイルオーダー導入後に客単価を平均310円アップさせた飲食店の具体的な取り組みを紹介します。
📌 この記事でわかること
- モバイルオーダー導入で客単価が下がってしまう理由
- 接客の「2回の接点」がセールスにとって重要な理由
- 人件費削減分をインセンティブに変える具体的な仕組み
- 自店でこの仕組みを導入する際のステップ
モバイルオーダー導入で起きる「客単価が下がる」という落とし穴
モバイルオーダーやタッチパネル注文の導入は、ホールスタッフの業務負担を減らし、人件費を抑える効果が期待できる手法として、多くの飲食店で取り入れられています。実際、モバイルオーダーやセルフオーダー端末の導入によって客単価が向上したという報告もあり、正しく運用すればプラスに働く施策です。
しかし一方で、人がオーダーを取らなくなることで、思わぬ副作用が生まれるケースがあります。それが「客単価の低下」です。
そもそも、なぜ人が注文を取ると客単価が上がりやすいのか
通常、スタッフが接客する飲食店では、お客様との接点が最低でも2回あります。
注文を受け取るタイミング
「こちらの一品もいかがですか?」と一押しのセールストークができる
料理を提供するタイミング
すでに注文が確定しているため、追加提案はしにくい
モバイルオーダーを導入すると、この1回目の接点がなくなります。お客様はメニュー画面だけを見て自分で注文を決めるため、「ついでにこちらもいかがですか」という一押しのセールストークが入る余地がなくなるのです。料理を提供する場面で追加提案をしても、「もう注文してしまったので」と断られやすく、効果が出にくいのが実情です。
💡 ポイント:モバイルオーダー導入によって人件費は下がっても、セールスの機会も同時に失われやすい。この「機会損失」に気づかずに運用していると、結果的に売上全体が縮小してしまうことがあります。
人件費削減分を「ラッキー」で終わらせない発想
多くの飲食店では、モバイルオーダー導入によってホールスタッフを1人減らせた分、「人件費が浮いてラッキー」という捉え方で終わってしまいます。しかし、客単価アップに成功した店舗は、この発想を転換しました。
浮いた人件費を「経費削減」ではなく「原資」に変える
例えば、モバイルオーダー導入前は5人で店舗を運営していたとします。導入後、1人分の業務がシステムに置き換わり、4人で運営できるようになったケースを考えてみましょう。スタッフ1人あたりの人件費が1日1万円(イメージ)だとすると、5人体制では1日5万円、4人体制では1日4万円の人件費がかかる計算になります(※あくまで説明のための仮定の数字です)。
単純計算では、ここで1日あたり1万円の差額が生まれます。多くの店舗はこの差額を「コスト削減効果」として処理し、そのまま終わってしまいます。しかし、客単価310円アップを実現した店舗は、この差額を「スタッフへの売上連動インセンティブの原資」として活用しました。
客単価が平均310円アップした飲食店の具体的な仕組み
この店舗が実際に行ったのは、次のようなシンプルな制度設計です。
モバイルオーダー導入によって浮いた人件費(このケースでは月あたり約30万円・イメージ)を「人件費削減によるコスト効果」として処理せず、丸ごとスタッフへの売上連動インセンティブの原資にする
スタッフが料理を提供する際や片付けの際に、積極的にプラスの一品をセールストークで提案してもらう
セールスによって上がった売上に応じて、その原資からインセンティブを支給する
スタッフのモチベーションを変えたインセンティブ設計
このケースでは、月給25万円(イメージ)の社員に対して、最大で月10万円(イメージ)のインセンティブが上乗せされる設計になっていました。年間で換算すると120万円(イメージ)に相当する金額です。飲食店の現場で、店長になっても給与がそれほど上がらない実情を考えると、このインセンティブの大きさがどれほどスタッフの行動を変えるか想像しやすいのではないでしょうか。
📌 ポイント:「料理を運ぶ・片付ける」という何気ない接点も、インセンティブ次第でスタッフが自発的に「あと一品いかがですか」と声をかける場面に変わります。仕組みがスタッフの行動を変えるのです。
数字で見るインセンティブ効果のシミュレーション
このお店では、客単価が310円アップした結果、1日の来客数が200人(イメージ)の場合、1日あたり6万2,000円(イメージ)の売上増となりました。これを30日で計算すると、月間で約186万円(イメージ)の売上増加に相当します。モバイルオーダー導入で浮いた月30万円(イメージ)の人件費を原資にしただけで、結果としてその数倍の売上増を生み出した計算になります。
もちろん、これは一つの事例にもとづく仮定の計算であり、業態や客単価、来客数によって結果は変わります。ただ、「人件費削減=コストカットの終着点」と考えるか、「人件費削減=次の売上を生む原資」と考えるかで、得られる結果が大きく変わることを示す好例と言えるでしょう。
自店でこの仕組みを取り入れるためのステップ
モバイルオーダー導入で浮いた人件費を可視化する
何人分の業務が削減され、月にどの程度のコストが浮いているのかを具体的な数字で出す
浮いた金額を「コスト削減効果」として処理しない
経費削減の成果として終わらせず、次の施策の原資として位置づける
売上連動インセンティブとして制度化する
「いくら売上が増えたら、いくら支給する」というルールを明文化し、スタッフに共有する
提供・片付けのタイミングでの一言提案を仕組み化する
「あと一品いかがですか」を自然に言える場面とトークの型をスタッフと一緒に作る
導入時に気をつけたい注意点
インセンティブの原資と支給ルールは、スタッフ全員が納得できる形で事前に明確にしておく必要があります。曖昧な基準は不満につながります。
セールストーク自体に苦手意識を持つスタッフもいるため、トークの型やロールプレイで事前にサポートする体制も検討すべきです。
モバイルオーダーシステム自体の導入・運用にもコストがかかるため、中小企業庁の賃上げ支援策など公的な支援制度も併せて検討すると、原資確保の負担を抑えられます。
まとめ:モバイルオーダー導入は「省人化」だけで終わらせない
✓ 今日から見直したいポイント
- モバイルオーダー導入は人件費削減と同時に「接点の減少」というリスクも生む
- 浮いた人件費は「コストカットの成果」で終わらせず、次の売上を生む原資にする
- 売上連動インセンティブはスタッフのセールス意欲を引き出す有効な仕組み
- 制度化と現場へのサポート体制をセットで設計することが成功のカギ
モバイルオーダーは正しく活用すれば、省人化と客単価アップを両立できる強力な武器になります。「人が減った分、コストが浮いてよかった」で終わらせず、その原資をどう次の売上につなげるかを考えることが、これからの飲食店経営に求められる視点ではないでしょうか。




