コーヒー自販機メーカーが短期間で設置台数を伸ばした理由は「直接の取引先」と「その先のユーザー」の両方に価値を提供する座組み設計でした。BtoB営業や中小企業の集客で「売れるけど結果が出ない」「良い提案なのに契約が取れない」と悩む経営者に向けて、両者への価値提供を両立させる考え方を解説します。

BtoB営業・集客の本質

BtoB営業で売れない理由は「座組み」?コーヒー自販機の戦略に学ぶ集客法

「提案には自信があるのに、なぜか契約が取れない」「契約は取れたのに、なぜか長続きしない」——この2つの悩みは、実はまったく違う原因から生まれています。BtoB営業や中小企業の集客がうまくいかないとき、多くの経営者は「商品力」や「営業トーク」に原因を探しがちですが、本当の問題は「座組み」、つまり誰にどんな価値を届ける設計になっているか、にあることが少なくありません。今回は、ある製造業向け研修で紹介された、自動販売機メーカーの興味深い事例から、この「座組み」の考え方を解説していきます。

この記事でわかること

  • 「売れるけど続かない」「良い商品なのに採用されない」が起こる構造的な理由
  • BtoBビジネスに存在する「直接の取引先」と「その先のユーザー」という2つの顧客
  • 両方に価値を提供する「座組み」をどう設計すればいいか
  • 自社の商品・サービスに当てはめて見直すための具体的な視点

高速道路のサービスエリアで見かける、あの自販機の話

高速道路のサービスエリアや、東京駅・大阪駅・名古屋駅といった大きな駅のホームで、コーヒーを注文すると機械の中で豆を挽いて1杯ずつ抽出してくれる自動販売機を見かけたことはないでしょうか。注文を受けてから豆を挽いて作るという、登場時には世界初とされた仕組みを持つ自販機です。

この自販機を製造している会社が、非常に高いペースで設置台数を伸ばしてきたという事例が、製造業向けの研修の中で紹介されていました。なぜそこまで設置場所が広がったのか。その理由を一言でいえば、「売れる仕組み」を作ったから、ということになります。ただ、ここでいう「売れる」が指している相手は、私たちが思っているものと少し違います。

「お客さん」は1人ではない、という視点

エンドユーザーだけを見ていないか

自販機の話で考えると、コーヒーを飲む人(エンドユーザー)にとっての価値は、美味しいか、安いか、早いか、清潔かどうかといったところでしょう。多くの企業はここに意識を向けて、商品開発や接客の改善に力を入れます。もちろんそれは大切なことです。

しかし、自販機ビジネスにはもう1人、重要な関係者がいます。それは「設置を許可する立場の人」です。

設置を許可する側が見ているのは「手数料」

サービスエリアの運営者や駅の管理者など、設置場所を提供する側からすると、関心の中心は「どれだけ美味しいか」ではありません。電気代を払いながら自販機を置くわけですから、「1台あたり、毎月いくら自分たちの儲けになるのか」が最大の関心事になります。

つまりBtoBの取引には、構造として2つの「お客さん」が存在します。

①直接の取引先(設置を許可する立場) ②取引先の先にいるエンドユーザー(実際に商品・サービスを使う人)

なぜ「片方だけ」では事業が長続きしないのか

ここがこの事例の核心部分です。直接の取引先とエンドユーザー、両方への価値提供が揃っていないと、ビジネスはどこかで止まってしまいます。

1

エンドユーザーへの価値だけを追求した場合
美味しい、便利、品質が良い——これだけでは「設置してもらえない」という壁にぶつかります。直接の取引先にとってのメリット(収益性)が示せなければ、そもそも導入の許可が出ないからです。

2

直接の取引先への条件提示だけを優先した場合
手数料や条件の良さだけで導入してもらえたとしても、エンドユーザーにとって魅力がなければ実際には売れません。結果が出なければ、その契約自体もいずれ終わってしまいます。

このコーヒー自販機の会社は、「注文後に豆を挽く」という仕組みでエンドユーザーへの価値(美味しさ・体験の良さ)を高め、それによってよく売れる自販機になったからこそ、設置場所側に支払える手数料も確保できた、という両立を実現していたわけです。

コンサルティングや中小企業のサービスにも、同じ構造がある

「クライアント」と「クライアントの先にいる人」

この構造は、コンサルティングやBtoBサービス全般にも当てはまります。たとえばコンサルタントであれば、直接の契約相手である「クライアント」と、そのクライアントが提供するサービスを利用する「クライアントのエンドユーザー」という、2つの相手が存在します。

クライアントだけに向けた提案では、「それは自分たちがやりたいことではない」と判断されれば契約自体が成立しません。逆に、クライアントが契約してくれても、その先のエンドユーザーにとって価値がなければ、結果が出ずに契約は終わってしまいます。

多くの企業が「片方だけ」になってしまう理由

実務では、どうしても意識が片方に偏りがちです。営業や提案の現場では「契約してくれる相手」に意識が向きやすく、エンドユーザー視点が後回しになることがあります。逆に、商品・サービスの作り込みに熱中するあまり、「それを誰が導入の判断をするのか」という視点が抜け落ちることもあります。

ポイント

「売りやすいか」と「結果が出るか」は、それぞれ別の相手に向き合うことで生まれます。どちらか一方ではなく、両方を同時に満たす設計こそが「座組み」です。

自社のビジネスに当てはめて考える3つの視点

この事例から、自社の商品・サービス・売り方を見直すための視点を、3つのステップとして整理してみます。

1自社の商品・サービスに「2つの顧客」がいないか確認する

直接の取引先(販売店・代理店・導入企業の担当者など)と、その先で実際に使う人や受益者が分かれていないかを書き出してみます。1人しかいないと思っていたお客さんが、実は2層に分かれているケースは少なくありません。

2それぞれが本当に欲しいものを言葉にする

直接の取引先が欲しいのは「収益・効率・手間の削減」かもしれません。エンドユーザーが欲しいのは「体験の質・安心感・時短」かもしれません。同じ商品でも、相手によって刺さる言葉は変わります。

3両方に価値が届く設計に組み直す

提案書・営業トーク・サービス内容のどこかが「片方だけ」に偏っていないかを見直します。両方の言葉を1つの提案の中に同時に入れ込めるかどうかが、座組み設計の精度を決めます。

注意したいポイント

1

「2つの顧客」は業種によって見えにくいこともある
BtoCに近い業態では意識しづらい構造ですが、紹介・代理店・施工パートナー・販売店など、誰かを介して最終ユーザーに届く形をとっている企業であれば、必ずこの構造が存在します。

2

「片方への配慮」を「両方への配慮」だと思い込まない
取引先への気遣いをしているつもりでも、それがエンドユーザーへの価値に結びついているかは別問題です。両方を意識的に分けて検証する必要があります。

中小企業庁が公開している中小企業施策に関する情報でも、販路開拓や取引構造の見直しが経営課題として度々取り上げられています。自社の取引構造を一度整理してみることは、営業活動そのものを見直す良い機会になります。

まとめ:売れる仕組みは「誰のために」が2つある

この記事のポイント

  • ✓ BtoBの取引には「直接の取引先」と「その先のエンドユーザー」という2つの顧客が存在する
  • ✓ どちらか片方だけへの価値提供では、契約が取れない、または取れても続かないという結果になる
  • ✓ 自販機メーカーの事例は、両方への価値提供を同時に実現した座組み設計の好例
  • ✓ コンサルティングや代理店ビジネスなど、間に誰かが入るすべてのBtoBビジネスに応用できる視点
  • ✓ まずは自社の取引構造に「2つの顧客」がいないか書き出してみることから始められる

「良い商品なのに売れない」「売れたのに続かない」と感じたときは、商品力やトークの問題ではなく、座組みそのものを見直すタイミングかもしれません。直接の取引先とその先のエンドユーザー、両方の視点から自社のビジネスを点検してみてください。

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